三浦春馬さんの死で考えた30歳という境界線
ヒッピームーブメントが盛んだった1960年代後半に反戦活動家が言い出した「Don't trust anyone over 30(30歳以上は誰も信じるな)」というキーワード。CD化による歴史的名盤の再販ブームに乗せられ、1970年代までの洋楽にハマっていた学生時代の自分には無視できなかった。
ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズ、ジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックス、T-Rexのマーク・ボラン…。20代後半で亡くなったアーティストが多かったことにも影響されたと思う。
ところが社会人になって忙しく過ごすうち、境界となる日は何の感慨もなく通過していた。馴れ合いとか、空気読むとか、大嫌いだったはずの大人の慣習を平気で受け入れ、死ぬほど好きだったロックという生き方、そして昔の自分を裏切り続けて今に至る。
卒業の一年くらい前までは、モテないけど女好き、すぐに酔うけど酒好きというヒヨワながらもロックを胸に物事の筋は通していたと思う。
やがて、加齢と共に女は逃げ、酒はますます弱くなる。めでたく性欲も食欲も物欲も減退し無の境地へ。全然ロックではないが毎日楽しくはある。生きててよかった。
嘆くよりも先に
日本のロックバンド、ムーンライダースのアルバム「DON'T TRUST OVER THERTY」(1986年)のB面1曲目に収録されている「DON'T TRUST ANYONE OVER 30」の歌詞がとにかく衝撃的で重たい。
失踪前の男が我が子へ、愛する妻へ、女性(愛人?トラブルの影は見えない)へのメッセージを綴っている。憎むよりも、悲しむよりも、怒るよりも、嘆くよりも先に「30歳以上を誰も信じるな」と訴えかけ、最後に「そっと枕木に腰をおろしたい」と自殺をイメージさせる。
この歌を初めて聴いた当時、30歳以上の心理が分からなくなった。幼い頃、大人になった自分を想像できなかったように、結婚して妻子を持つことに恐怖心を抱いたことを覚えている。
順調に見える日常を送りながら蓄積する漠然とした不安。ちょっとしたことで昔を思い出し、今の自分に焦燥感を持つことは誰にでもあるだろう(同時に厨二病的な過去の黒歴史を恥じ入ることにもなるのだが)。
現状に違和感を抱いたら立ち止まってもいいし、強烈な向かい風が吹いてきたら避難したっていい。流されてみて少し様子を見るのもいいだろう。過去に殉じて今の自分を否定する必要はまったくない。
三浦春馬さんの死
俳優の三浦春馬さんが自殺した。30歳の若さということでいろいろ考えてしまった。
個人的には俳優としてよりもMCを務めていた「世界はほしいモノにあふれている~旅するバイヤー極上リスト~」(NHK総合、木曜午後10時半~)が印象に残っている。
海外に出向いたバイヤーを密着取材した映像を見ながらコメントしたり、実際に購入した商品をスタジオで紹介する役回りなのだが、共演するJUJUさんを立てつつ、いつも適格な感想を加えていた。
MCやレポートに脈絡のない自分語りを全面に入れてくる若手タレントが多い中で、本当に好ましい人柄だった。まだまだ原石のようなきれいなハートをお持ちだったに違いない。心よりご冥福をお祈りいたします。
一部報道によれば、SNSでのバッシング被害に遭っていたという。真面目な方だけに避けずに真正面から受け止めてしまったのだろうか。大変悔しいし残念でならない。