雑's ニュース なんでも書く

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おしんブームと聖子襲撃事件…耐えるだけが美徳じゃない

1983年といえば、NHKの朝ドラ「おしん」が大ブームとなり、忍耐が美徳のように語られもした時代。実際には、おしんは自ら道を切り開く強い女性の先駆けだった。

シンガーソングライター、茜沢ユメルさんがパーソナリティーを務める7/5の音楽バラエティー番組「ユメルのモナリザラウンジ」は1983年のヒットから選曲した。

1曲目にかけたのが8月にリリースした松田聖子さんの「ガラスの林檎」。この年の3月、聖子さんはコンサート中に約6000人の観客の前で、熱狂的なファンから襲撃を受け負傷していた。

犯人はいわゆる通院歴のある19才少年。逃げる聖子さんの手をつかみ、パイプで頭部を何発も殴った。ボコッ、ボコッと殴打する音がマイクに拾われ、会場が悲鳴に包まれる中、聖子さんは病院に運ばれコンサートは中止となった。

映像は何度もテレビで流され、当時の報道によれば「有名人を襲えば自分も有名になれる」という救いようのない動機。聖子さんのショックは察するにあまりあり、長期休養に入るのではないかと誰もが思っていた。

アイドルとしての覚悟

ところが聖子さんは1週間後に復帰する。右手中指に包帯を巻いた記者会見では、気丈にも報道陣に笑顔を見せて次のように述べている。

「精神的にも肉体的にも元気になりましたので、新たなスタートになるよう『災い転じて福となる』という言葉もありますけど、そういう気持ちで頑張りたい」

まだ21才である。子供ながらに感銘を受けたことを覚えている。聖子さんはその後、数々のスキャンダル、バッシングをはね返してアイドル新時代ともいえる新境地を切り開いてきた。

自分がいまだにファンであり続けるのは、可愛さや歌唱力だけでなく、その強さに惚れ込んでいるからに違いない。

河合奈保子の受難は?

番組では河合奈保子さんのヒット曲「エスカレーション」もオンエアされた。いつも笑顔を絶やさない印象のある奈保子さんだが、謂れのない偏見と闘ってきた女性ではないかと推察する。

それは「胸の大きな女性は頭が悪い」という都市伝説である。アイドル黄金時代においてクラスの男子は聖子派、明菜派、奈保子派などに分かれて対立。奈保子派は「笑ってばかりいるバカ女」と罵しられるのが定番だった。

何を根拠にそんな説が広まったのか知らないが、周りを見渡せば自分よりも遥かに成績優秀かつふくよかな女子がやまほどいたのだから、なぜあそこまで断定的に言い切れたのだろう。恥ずかしいったらありゃしない。

セクハラ質問の回答は?

プロポーズ大作戦」(1974~1985年)という恋愛バラエティー番組があった。その中の人気コーナー「フィーリングカップル 5 vs 5」に芸能人選抜チームの一員として、奈保子さんが登場したことがあった。

男性陣、女性陣から全員に対していくつか質問し、その回答から一番いいと思った相手を選ぶというお見合いパーティーの走りのようなものである。

▼懐かしいテーマ曲はこちら

そこで女性陣へ「デート中に擦れ違った胸の大きな女性に目を奪われた彼氏に一言」という質問が出された。

奈保子さんの回答は「大きければいいってものじゃないのよ」だった。聖子派だったので「自分のことじゃねえか。ケケケ」などと幼稚に大喜びしていた。今なら胸が大きかったばかりに嫌な目にもたくさん遭ってきたのだろう、と思い至るのだが。

奈保子さんは可愛いだけでなく、早い段階からピアニストとしての腕前も高く評価され、やがて作詞作曲もこなすようになった画期的なアイドルであった。バカだなんてとんでもない誤解。許してほしい。

最後に海外メディアから「オシンドローム」とまで命名されたおしんブームの話に戻る。

当時総理大臣だった中曽根康弘さんをはじめ、「おしん、○○、隆の里*1」などと政財界の重鎮がこぞって、自分が耐えがたきを耐えてきた風を装ったが、女性でブームに便乗していたのは記憶にない。

差別的な偏見がまだまだ強かった時代。社会で闘っている女性には、そんな隙を見せる余裕すらなかったのかもしれない。

「ユメルのモナリザラウンジ」は1960~90年代のJ-POPを中心にした音楽バラエティー番組。シンガーソングライターの茜沢ユメルがメインパーソナリティーを務め、毎週日曜深夜24時からTOKYO FMグループの音楽専門衛星放送「MUSIC BIRD」のほか全国100局超のコミュニティーFMでオンエアされている。

MUSIC BIRDの番組公式ページ放送局一覧

*1:糖尿病を克服して30才11カ月で昇進した第59代横綱。当時放送中の大河ドラマと合わせて「おしん、家康、隆の里」が流行語となった