まるでドロドロ系ドラマ…ブラコンの皇后に翻弄された古代天皇
禁断の恋へ走った皇后に振り回された古代天皇がいた。裏切られても未練がましく追いかける。まるでドロドロ系の深夜ドラマのようだ。
こんなことを思い出したのは「ギルティ~この恋は罪ですか?」(日本テレビ系、木曜午後11時59分~)を見ているせい。ドラマに負けず劣らずのゲスい展開が繰り広げられる。
ギルティ Episode.8
日本最古の歴史書「古事記」にみっともない伝承が残るのは11代・垂仁天皇。子供の12代・景行天皇はあの日本武尊(ヤマトタケル)の父親だ。
古事記によれば、皇后の名は沙本毘賣(サホビメ)。重度のブラザーコンプレックスだったと思われる。実兄の沙本毘古(サホビコ)はその気持ちを利用して、皇后に天皇の暗殺を持ち掛けた。
そのときの会話がこちらになる。
- 兄「お前は旦那と俺のどっちを愛してるんだ」
- 皇后「お兄ちゃんよ(モジモジ)」
- 兄「それじゃ俺と一緒に天下とろうぜ」
バカップルのように脚色してしまったが、大河ドラマよりも深夜ドラマ(昔なら昼メロ)の演出の方がしっくりくる。皇后が「ダメよ、ダメダメ」と言いながら、強引な誘いによろめいてしまった姿を妄想する。
涙を流して計画白状
さて、場面は変わって皇后の膝枕でスヤスヤ寝ている垂仁天皇。皇后は寝首を掻こうと兄から渡された小刀を振りかざすが、溺愛してくれた夫との思い出が頭をよぎり涙をこぼす。
その涙が顔に落ちた垂仁天皇は目を覚まし「不思議な夢を見ちゃった…」と呑気なことを言い出す。頼りないけどいい人そう。さらに「小さな蛇が首に巻き付いてきたの」などと夢の続きを話す。
当時天皇の見る夢は特別な宣託と理解されていたのだろうか。皇后は観念しすべてを白状する。
兄と立て籠る皇后
嫉妬深そうな垂仁天皇のこと。兄妹のただならぬ関係を察知したのだろう。皇后を唆した兄の屋敷に軍を向かわせた。一方、皇后は隙を見て逃げ出して兄と一緒に立てこもってしまった。
垂仁天皇が本格的に翻弄されるのはここからだ。クーデターを謀った義兄は憎いが、愛する皇后が一緒では攻撃できない。しかも皇后は身ごもっていた。
「古事記」には「稲城」とあり、藁を積み重ねて屋敷を防御していたらしい。火矢をかけられたらあっという間に燃え広がり、皇后の命もあるまい。
日本美術界の大家が描いた日本神話の世界
討つか討たないか、躊躇しているうちに出産。優柔不断にもほどがあるが、皇后は一緒に焼かれてしまうことを哀れんで我が子を引き取るよう求めた。垂仁天皇は皇后もろとも取り返すことを画策する。一番のヤマ場だ。
炎上する屋敷から、赤ん坊を抱いた皇后が現れる。見た目では分からないが剃髪した上にカツラをかぶり、腕輪を腐らせ、服は破れやすい状態で着用していた。
赤ん坊を受け取った兵士たちが皇后を捕まえようと頭や腕、服をつかむたびにズルリズルリと逃げられ、皇后は兄の元へ戻ってしまったそうな。
心配はそれかよ!
この後、炎上する屋敷を挟んで夫婦の最後の会話が交わされる。ラストにふさわしいドラマチックな演出である。
死ぬ覚悟ができている皇后は、手放したばかりの我が子の将来を案じて、乳母にふさわしい女性を指名し、きちんと育てるよう要望する。一方、天皇は見も蓋もないことを尋ねた。
「皇后ちゃんがいなくなったら僕は誰とすればいいの(誰が僕の貞操紐を外してくれるの)?」
「知るかボケぇ!」と答えて構わないところだが、律儀にも皇后は遠い親戚に美人姉妹がいるので後釜にしたらよいだろうと提案している。
死ぬ間際に女の世話をさせられるとは、夢にも思っていなかっただろう。寝首を掻くべきだったとさぞや後悔しながら死んでいったに違いない。
後日譚がまた酷い。垂仁天皇は候補のうち、何名かを「醜い」という理由で追い返した。その女性は自殺したとな。元妻への当て付けだろうか。どうせ一夫多妻なのだから帰さずともよかろうに。
編纂者のサービス?
「古事記」は官吏が記憶した歴史書の暗誦をまた別の官吏が書き取ってまとめたものという。
○○○○比古が△△△△毘女と●●●●、▲▲▲▲、□□□□を産み…などと退屈極まりない系譜が延々と続く書物だ。
読む人が飽きないようにと官吏達が創作して付け加えたのが垂仁天皇のエピソードだったのか。下世話すぎて違和感はあるが。
しかも、天然っぽく被害者を装っていた垂仁天皇も最後にクズの一面を見せることになる。展開としては面白いが、編纂者の意図は知れない。天皇ですらストーリーにはめ込む駒でしかなかったのだろうか。