雑's ニュース なんでも書く

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淡々と人の死を判定「死神の精度」 そこに愛はあるのか?

伊坂幸太郎さん原作の映画「Sweet Rain 死神の精度」(2008年)を見た。ストーリーは改変されているが、淡々とした原作の不思議な空気感が伝わってくる良作だ。

昨年末から今年にかけてツイッター漫画「100日後に死ぬワニ」が話題を集めた。擬人化された主人公のワニくんは刻一刻と近づく死亡予定日を知らずに普段と変わらぬ日常を送る。

神の視点に立つ読者は、ワニくんが既にこの世にいない来年の予定を考えたり、片想いの恋がなかなか進展しない様子を見たりして、愛しさとせつなさと心強さとを感じるのである。ちと違うか?

折り返しぐらいから読み始めたが、メディアで取り上げ始めた相乗効果もあり、ぐいぐい引き込まれていった。終了後に炎上したのはまた別の話。

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感想(6件)

一方、「Sweet Rain 死神の精度」の主人公である死神の千葉さんは「調査部」に所属。7日後に病死、老衰、自殺以外の不慮の死を遂げる人の前にさりげなく現れる。担当死神の判断で対象者の死を回避させることは可能だが、そのまま死なせるケースが大半という。

千葉さんをはじめ死神は時代を行き来しているせいで、言葉の細かいニュアンスを理解できないらしい。そのせいで発生する噛み合わない会話が和ませてくれる(例:「私、醜いですから」「見にくくない。はっきり見えてる」等)。

ストーリーを変えながらも設定の根幹は変えず、伊坂幸太郎さんの原作にある不思議な浮遊感がよく出ていると思う。しかし、原作に引きずられ過ぎると思わぬトラップにかかってしまい、ストーリーを追いづらくなる可能性もあるのでご注意を。原作を下敷きにしたオリジナル作品として捉えたほうが入っていきやすいかな。

味わい深い棒読み

「死についてどう思ってる?」「死を特別なものとは思わない」―。人の心が分からない千葉さんは、まもなく死ぬ人に対してデリカシーのない言葉を幾度も投げかける。対象者はかすかに死を意識しており、鑑賞者の目には冷酷な態度にも映る。

千葉さんに悪気はなく、素朴な疑問をぶつけているだけだ。調査の一環というわけではなさそうで、ただの興味本位といったところか。

人の死には動じない千葉さんが心動かされるのは「ミュージック」だ。死神に共通する特性らしく、CDショップの視聴コーナーには死神が入り浸っているという。「ミュージック」のためなら対象者の死を回避する「見送り」の判断をすることもある。

三話形式のオムニバス風。最後に話が集約されるのは伊坂さんのファンならお約束の展開。今回もいい感じでつながっている。

それぞれ味わい深いのだが、とくに最後の話(原作では「死神対老女」)が気に入った。舞台となる海岸沿いの高台に建つ理容室のレトロな雰囲気に加え、富司純子さん演じる対象者と千葉さんの棒読みに近い会話のやり取りが実に味わい深い。

優しい雨もある

ちなみに続編となる長編小説「死神の浮力」が2013年に出版されている。静的な印象が一転し、救いようのない凄惨な事件が軸になっており、派手な展開も多い。こちらのほうが映画向きだったかもしれない。

映画のタイトルとして原題に足された「Sweet Rain」は、千葉さんが仕事をする7日間はいつも雨降りであることに由来。しとしと降る雨を眺めながらカーペンターズでも聴きながら家にいるのも悪くない。暴風雨は勘弁だけど、優しい雨もある。