原作に思い入れがある映画には気をつけろ!
好きな作家の小説なり漫画の映画化にはついつい身構えてしまう。自分が思い描いていた世界観とかけ離れていた場合、絶望の淵に落とされることになる。
映画を酷評する言葉に「時間の無駄」という表現をよく見掛けるが、駄作は駄作なりに「何がどうしてこうなった」を考えるのが楽しいので、作品に向き合う姿勢が変わるだけで「時間の無駄」とは思わないたちだ。
我ながら「得な性格だなぁ~」と気に入っているのだが、原作に思い入れがあると俄然違ってくる。たとえ世間一般の評価が高かろうとも駄目なものは駄目なのだ。
最近見た二つの作品につくづくそう感じたのでまとめて紹介する。
伊坂幸太郎「グラスホッパー」
伊坂幸太郎さんの魅力といえば、どこか他人事のように感じる飄々とした会話、残酷なシーンでも生々しくならない乾いた描写、バラバラに始まったストーリーが後半に一気に集約されていくスリリングな展開だと思っていた。
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まだまだ数え上げたら切りがないのだが「グラスホッパー」(2015年)の演出、脚本は真逆。アクションばかり強調され、一本ネジが外れてミステリアスな登場人物たちは、分かりやすい過去のトラウマや陳腐な友情とか持ち出してくる。
ラストに至っては2時間ドラマのように懇切丁寧に登場人物が辻褄が合うようにストーリーを解説していく。あり得ない程の偶然に支えられ、謎をたくさんの残したまま白昼夢を思わせる原作の読後感は欠片も感じなかった。なにより兄弟から発せられるあのセリフがなかったのが寂しすぎる。
製作に関わったスタッフは、映画でやたらと強調された平板なダークさを原作に感じたのかもしれない。主演と殺し屋の一人を演じたジャニーズ所属のタレント二人のファンからの評価はとくに高かったようだ。
原作をこよなく愛していなければ、もっと楽しめたかもしれない。
筒井康隆「スタア」
もうひとつは筒井康隆さん原作の「スタア」(1986年)。公開時に映画館で見て以来となる。
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筒井さん自身が脚本を手掛け、マッドサイエンティストとして出演していることから分かるように原作者のお墨付き。ベテラン俳優に混じったジャズピアニスト山下洋輔さんの演技が素人同然でも、特撮が原始的でも作品の出来映えには関係ないのだ。
ブラックな笑いを散りばめたスラップステックSFという筒井さんの世界が目いっぱい詰まっている。制作費は「グラス…」とは桁二つくらい違うのかもしれないが、満足感は遥かに凌駕している。
好きな小説、漫画を原作にした映像や舞台作品は、見る前に作者の意見を確認した方が良さそうだ。
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