雑's ニュース なんでも書く

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中二病の頃が愛おしくなる 「ねらわれた学園」というコメディー映画

キッチュとレトロの組み合わせに勝るものはない。校長の机に置かれたプラスチック製の赤電話。ヒロインのお嬢様家族が自宅では和服で過ごす設定は、考証の甘い外国映画に出てくるニッポンを見ているようだ。

今月上旬に亡くなった大林宣彦監督の「ねらわれた学園」(1981年)を久しぶりに鑑賞した。薬師丸ひろ子主演のアイドル映画だが、独特の映像美が癖になるのか、数年おきに無性に見たくなる。年齢を重ねるごとに感想が変化していくのが面白い。

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ジュブナイルSFの名作

公開当時の印象は酷いの一言。昨年秋に亡くなった眉村卓の原作は少年向けのSF小説ジュブナイルSF)の名作の一つ。1973年に刊行された。筆者も原作をこよなく愛しており、大袈裟でわざとらしい演出や、安っぽく見えた特撮が原作への冒涜と感じたのだ。

1970年代前後に大流行したジュブナイルSFとは、後に確立されたライトノベルに近いジャンルに思える。眉村のほか筒井康隆光瀬龍豊田有恒らが学習雑誌などに連載していた。

テレビの戦隊モノを卒業した男子がハマりやすく、知らぬ間に超能力を身に付けた中高生が、人類を代表して学園や町内を舞台に宇宙人らと戦うパターンが王道だ。

主人公は超常現象を信じぬ周囲の無理解に孤独感を募らせるケースが多く、感情移入した男子は「いつしか自分にもその時が訪れる」と信じて疑わない。そして、見えない敵を常に警戒しながら悲壮感を漂わせ、妄想生活を送ることとなる。

自分も重度の中二病を患っていたため、映画を見て不愉快になったのだ。

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トンデモ設定の理由

ねらわれた学園」のタイトル通り、侵略者が塾で洗脳した生徒を使って、超能力を持つ主人公が通う高校を支配しようとする。

宇宙人が軍隊や政府ではなく学校を真っ先に狙うとは荒唐無稽極まりないが、仕方がない。読者を投影した主人公の生活範囲は限られている。敵からそのエリアに入ってこないと話が始まらないのだ。

主人公らの言動は高校生にしては幼いように感じるが、原作と同じ中学生に置き換えるとジャストフィットする。

SNSで多様なコミュニティーとつながっている現代と違って、当時の中学生の大半は家族と学校のつながりだけが世界の全てで宇宙の中心だった。

だから、放課後に部活動ではなく塾に通う者は異端であるし、宇宙からの侵略者が塾を作って生徒たちを洗脳していても何も違和感はなかった。

大林宣彦監督の優しさ

ところが中学三年生を迎えた辺りから「いくら宇宙人の侵略を待っていても、作品と同じことが起きるはずもない」とハタと気づく。徐々に気づく人もいたかもしれない。いずれにしろ、男子たちは中二病に罹患していた頃を黒歴史として抹殺し、大人の階段を踏み出していく。

しかし、忘れた頃に超能力や敵のメモ書きが机の奥から出てきたりする。そのたびに記憶が甦り、恥ずかしさのあまり床をのたうち回る。かつて夢中になっていた作品を目にしたときも同様の感情が沸いてくる。

大林監督の「ねらわれた学園」。ミステリアスなポスター(DVDジャケット等)に惑わされてはいけない。中二病そのものの原作をパロディー化したコメディー映画なのだ。それまでシリアス路線が続いていた角川映画だったことも、公開前に騙された要因の一つ。

この映画を見て羞恥心なく笑えるようになった時、黒歴史のトラウマはきれいに取り除かれている。見るたびに妄想に満ちた過去の自分への愛情が深まっていく、優しさに満ちた作品だったのだ。

舞台は筆者のホームグラウンドの新宿。副都心になるずっと前で現在とはだいぶ印象が異なるが、作品に出てきた新宿ALTAのオーロラビジョンは変わらなかった。巣籠もり生活が長くなり、雑踏が心から恋しくなった。新型コロナウィルスの終息を切に願う。