雑's ニュース なんでも書く

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古代天皇に「食人」の言い伝えが残ったワケを妄想した

「人間を食べていた」という野蛮極まりない伝承が残る古代天皇がいる。そんな突拍子もないことが語り継がれた理由を妄想してみた。

食人という奇癖があったのは、第二代・綏靖天皇。初代・神武天皇の三男で実在が疑わしいといわれている欠史八代の一人だ。

記紀では、母親違いの長男を兄と協力して殺害し、天皇の地位に就いたことになっている。体が大きく、長兄殺害にためらう次男に変わって手を下したそうだ。

次男は弟の勇気に感服して天皇の地位を譲ったとあるが、その血生臭いドラマが後にとんでもない言い伝えを残す遠因になってしまったのかもしれない。

まるで「進撃の巨人

綏靖天皇の食人癖の話が出てくるのは、日本書紀古事記ではなく南北朝期(14世紀中頃)に編纂された「神道集」。地方に残る古代の神様の言い伝えをまとめた記録とか。

迷える神々を仏の教えが救済したとする本地垂迹の思想に基づいている。そのことを割り引いても、一国の為政者が食人とは穏やかでない。

神道集にある熊野の章に「朝に夕に人を七人食らいなさった」とあり、「進撃の巨人」かゴヤが描いたサトゥルヌスのように手づかみで人を口に運んでいる姿が想像される。これは酷い。

続きを読むと、「誰ひとり生き残れるとも思われず」と悲観した臣下の策謀で公卿、女房ら数人と岩屋に閉じ込められるが、「その後はどうなったともわからない。悪王と善王とを引き換え」た、とそのまま飢え死にしたことが暗示される。*1

為政者の食人で思い出すのは、ウガンダのアミン大統領だ。未見だが子供の頃に話題になった映画「アフリカ残酷物語・食人大統領アミン」(イギリス、1981年)の印象が強烈だった。

アミンはヘビー級ボクサーでもあった巨漢で、40万人を大量虐殺したとされ、黒いヒトラーと呼ばれた歴史に残る暴君の一人。

出身部族の呪術に従って、政敵の死体から肉片を削いで口に含んだことから「食人」の中傷が広がっていったらしい。

名前を拝借した?

アミンを持ち出して何が言いたかったのかといえば、暴君の中傷に「食人」の言葉がふさわしいということ。

いつの時代かは知らないが、言い伝えを残した住民たちは、横暴な支配者に不満があったことで、兄殺しの逸話のある古代天皇を持ち出して、食人譚を作り出したのではなかろうか。

不満の相手は税の取り立てが厳しい役人だったかもしれないし、平安末期からたびたび起きる戦乱に伴う豪族の所業に腹が立ったのかもしれない。実名で批判することは憚られたのだろう。

言い伝えに「火の雨が降る」という臣下の虚言を信じて監禁されるというマヌケなくだりを加えることで、日頃の鬱憤を晴らしたのではないかとも想像する。

埋もれる日本神話

名前を気軽に拝借されたり、その不名誉な伝承を書物に残されたりと、論評すらタブーになった感のある現在の皇室に比べ、ずいぶんと庶民に近しい存在だったのだな、と思う。

ところで大冒険、禁断の恋、裏切り、嫉妬…少年ジャンプにも韓流ドラマにも負けない気宇壮大な日本神話が埋もれているのは惜しい。もっと身近なものにならないかな。愛国心という言葉は好きではないけれども。