役に立たない高級ロボットが大人気…不安になる理由
何も役に立たない愛玩用の高級ロボットが大人気とか。ほのぼのニュースとして盛んに取り上げられているが、そんな世相を不安にも思う。
振り返れば奴がいる――。ふた昔も前に同じ名前のドラマがあったが、まったく関係のない話をする。
会社に勤めていた頃、何かの間違いで精鋭が集まる最前線の部署に放り込まれたことがある。
上司にしてみれば親心だったのかもしれない。しかし当の本人はこれから始まる激しい生存競争を思い浮かべてうんざりしていた。
そんなとき、奴がいたのである。
振り返れば奴がいる
ドラマ「振り返れば奴がいる」(フジテレビ系、1993年)は、ライバル関係ともいえる全くタイプの違う若手医師二人の衝突を描いていた。
大病院を舞台にした派閥争いや安楽死を絡めた社会派ドラマだったが、職場にいた奴には語るべき背景はない。
先輩にも関わらずとにかく仕事ができない人だった。できないだけではなく、感覚もズレていた。
例えば、出張に行ったはいいけれど成果はゼロ、なのに観光やグルメは押さえまくる。別にいいのだか、それをSNSに逐一アップする。楽しそうなコメント付きで。
皆呆れて嫌みの一つ二つは言うのだが、本人は何が悪いのか分からずキョトンとするのみ。会社にはまったく貢献してなくても、なぜかいつも自信満々だった。
ただ自分はそんな先輩を「振り返れば奴がいる」と安心材料にさせてもらっていた。先頭に置いていかれないように必死に走っている中、断トツでビリがいてくれるのはありがたかったのだ。
なぜ奴が最前線の部署に長くいるのか、七不思議のように言われていた。いま思えば上司はその効果を知ってて残していたのだろう。
不安だった自分も大ポカすることなく勤め上げ、数年後に希望の部署に異動できた。役立たずの先輩がいてくれたおかげかもしれない。
ダメな子は可愛い
家族型ロボット「LOVOT(ラボット)」が大人気らしい。一体30万円近くするというのに何の役にも立たないところがいいのだとか。
▼ラボットを開発した林さん
掃除をするわけでもなく、家の中をウロウロして帰宅時に出迎えてくれたり、抱っこをせがんだりするという。しぐさだけでなく、潤んだ感じの瞳にも癒やされる。
新型コロナ禍で成長が見込めなかったり、収入が減ったり、努力が報われない時代には、何もできないダメな子の方が可愛いのかもしれない。
コロナ禍で弱気の虫
テレビなどのメディアがほのぼのニュースとして盛んに取り上げているが、そんな世相を不安にも感じる。
前述した職場の例では、自分のような脱落しかねない者には役立たずの存在がありがたかったけれど、先頭を争うトップランナーたちは最初から奴を相手にしてなかった。
ラボットがもてはやされるのは、社会全体が弱気の虫に取り憑かれているせいではないか、と思わないわけでもなかったりする。