忌野清志郎の訳詞の凄さ あの「誰かさん」も認めてた
首都圏は延長されるようだけど、緊急事態宣言下での自粛生活も終わりが見えてきた。2カ月近く好きな音楽、映画、本を追体験するよい機会となった。 今回はこよなく愛する忌野清志郎さんがZERRYと名乗って結成した伝説の過激派バンド「ザ・タイマーズ」の名曲を紹介したい。
訳詞の特別な味わい
2001年から続いている年末恒例の音楽番組「クリスマスの約束」(TBS系)。2017年のオンエアでは、いきものがかりの水野良樹さんが訳詞したキャロル・キングの「君の友だち」が流れた。
メインの小田和正さんは演奏を始める前に「訳詞にしかない特別な味わいがあって、(忌野)清志郎の才能の凄さを今になって感じる」と既に鬼籍に入って8年が経過した旧友を偲んだ。
忌野さんが中心メンバーだったRCサクセションの「たとえばこんなラブソング」(1980年のシングル「トランジスタ・ラジオ」のB面曲)に出てくる「誰かさんのように いい歌は知らない」という歌詞。その誰かさんとは、当時オフコースとしてバラードのヒットを連発していた小田さんを指すものと勝手に思ってきた。
その小田さんが忌野さんの訳詞を高く評価していたことを知り、大変うれしく思った。
忌野さんのその才能がいかんなく発揮された傑作の一つがモンキーズの「デイドリーム」をカバーしたザ・タイマーズの「デイドリーム・ビリーバー」(1989年)。大手コンビニのCMで誰もが耳馴染んでいるあの曲だ(除く沖縄?)。
ラブソングではなかった
でもそれは 遠い遠い思い出
日が暮れて テーブルに座っても
ah 今は彼女 写真の中で
やさしい目で 僕に微笑む
ラブソングだとばかり思っていたこの訳詞が、幼い頃に死別した実母と育ててくれた伯母のことを思って書かれたものだと知ったのは、2014年に刊行された忌野さんの著書「ネズミに捧ぐ詩」を読んでからだ。
ケンカしたり 仲直りしたり
ずっと夢を見て 安心してた
ぼくは デイドリーム・ビリーバー
そんで 彼女はクィーン
忌野さんが実母の存在を知ったのは大人になってからだったそうだ。実母の姉に当たる(ずっと母親と思っていた)伯母から遺品を渡され、幸せな気持ちでいっぱいになったという。
それを知って以来、この曲がますます好きになった。聴くたびに自分の幼い頃も思い出す。信じられないくらい時間がゆっくりと流れていたあの白昼夢のような感覚がよみがえり、胸がジーンとする。
ちなみに原曲はもちろん単純なラブソング。魔法のようにここまで訳詞に深みを持たせる忌野さんは間違うことなき大天才である。
そんな諸々のことにも思いを寄せながら、あらためて聴いてほしい。ホントよか曲ですよ。
▼音楽の話
▼ニュースの話
▼映画の話